幕末怪異聞録




その夜――…




「よっし!」


白の襟巻きを巻いた時雨は立ち上がった。


「狼牙、行くぞ。」


「……挨拶しなくていいのかよ。」


「ぞろぞろと見送られるのは嫌いだからな。」


「そうだったね…。」


人の気配がしないのを確認して、スッと襖を開けた。


外はやはり寒く、今朝積もっていた雪はまだ溶けていなかった。


時雨は縁側の下に置いていた自分の下駄に足を通した。


「世話になったな……。」


聞いているだろうその人らに対してぼそりと呟いた。


「狼牙。」

「おう!」


大狼の姿に戻った狼牙に乗り、新選組屯所から姿を消したのだった。




「これで屯所が少しは静かにならぁ……。」


「左之さんや新八さんがいるんですよ?むしろいなくなったって騒ぐんじゃないんですか?」


「……。」


土方の部屋で、沖田とこんなやり取りがあったのだった。


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