幕末怪異聞録
「おまんが時雨か!?」
「あ、あぁ…。そうだが…。」
ずいっと寄ってきたボサボサ頭の男。
(きったねえ男だな…。新選組の方が幾分かましだったな。)
そんなこと思っていたらいきなり手をつかまれた。
「ひっ……!!」
「儂は坂本龍馬っちゅうもんじゃ!儂は陽斗に頼まれとってな、おまんを探しとったがじゃ。」
「――陽斗…だと……?」
思わぬところで今は亡き夫、陽斗の名を出された時雨は更に眉間に皺を寄せた。
「そんな怖い顔やめるがじゃ…。
陽斗とはのぅ、江戸におったときに知り合うて仲良うしとったんじゃ。
最後に合うたときに
『儂に何かあったときは嫁の時雨と子の陽輝を助けてやってくれ。』
と頼まれとったきに。」
ニコニコと笑う坂本に時雨はふっと笑った。
(ほんと、あんたは人の心配ばかりしてたんだな…。)