幕末怪異聞録
話していたときふと廊下に人の気配を感じた時雨は、そちらに目配せをした。
「龍馬はん、入りますよ。」
「おう、入ってええぞ。」
そして入って来たのは時雨と同い年くらいの女子だった。
「あ、その人が時雨言う人ですか。」
そう言いながら座った女子は、時雨に向かい合った。
「私は楢崎龍(ナラサキリョウ)言います。お龍と呼んでください。」
そう言ったお龍は「よろしゅう。」と微笑んだ。
「私は灰鐘時雨。時雨でかまわない。で、こっちの犬が狼牙。
少しの間お世話になります。
よろしく。」
ニコリと時雨も笑った。
そんな時雨にずいっと近寄ったのは坂本だった。
「時雨さん!少しの間言うたが、ずっとおってくれてええ!そがな寂しいこと言いなや…!」
シュンッ…とする坂本が気付いたのはそんなことであった。
「気持ちは有り難いんだが、私はずっと京にいるわけではない。
まだ未定ではあるが、そのうち京を発つつもりだからな。」
時雨は困ったような笑みを浮かべるしかなかった。