幕末怪異聞録


周りを見ると、見て見ぬ振りをしてそそくさと通り過ぎる人々。


(誰も助けてやらねえのかよ……。)


些か呆れていたが、すぐにその女子に近付いた。


「ねぇ、私お団子食べたいんだけど。」


「え?あ、は、はい……。」


突然の時雨の登場に驚くが、怒り収まらぬ男は時雨にくってかかった。


「お前今の状況が分からねえのか!?

って、おめぇが相手してくれんのかい。」


じとーっと身体を舐め回すように見る男の視線に耐えられなくなった時雨は、持っていた大根を女子に渡した。


「それでは相手をしようかな――」


ドコッ!


バキッ!


ドサッ!


「―――大根持っててくれてありがとう。」


「いえ……。」


あの短い間に男を伸してしまったのである。


「それじゃあ帰るか。」


「―――よくもやってくれたな!」


「……。」


伸した相手がまた起き上がってきたのだ。


(適わぬ相手に向かうなど、馬鹿だな。)



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