幕末怪異聞録
巡察に戻った永倉は先頭を歩いていた。
「あの、永倉先生。」
「なんだ?」
永倉の後ろを歩いていた隊士がおずおずと声をかけてきた。
「先程の方ってもしかしてひと月前屯所にいた灰鐘陽輝という男じゃ――」
「何言ってんだ?あれは時雨っつう女だ。」
「え?でもあんな黄金色の髪をした人がそんなに―――」
「いたんだからしゃーねえだろ?
この話はもう終いだ!」
「は、はい!」
(ったく、めんどくせえことになったぜ。)
永倉がこれほどまでに時雨の存在を隠すのは土方の命であった。
「――平隊士には時雨の素性は秘密だ。」
「どう言う事ですか?」
「時雨は女の格好で京をうろうろしているそうだ。
後々面倒な事になりかねん。だから別人ってことにしとけ。」
「は、はあ…。」
この様な話が幹部の中であったのだ。
(恩を仇で返さぬためか、はたまた違う理由なのか……。)
土方の真意は定かではないが、こうして時雨の素性を隠すという命が下ったのだ。