幕末怪異聞録
池田屋事件
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元治元年六月――――……
時雨が京に来てから三月程経ち、蒸し暑い季節になっていた。
「――蒸し暑ー…。」
まだ六月というのに京の都は蒸し暑さに包まれていた。
「時雨、京の蒸し暑さを体験するんは初めてやもんな。」
「お龍はよくこんなとこにずっと住めるな…。」
「産まれたときからこんなんやもん。この蒸し暑さがなかったら夏が来たって感じがせえへん。」
「そんなもんか……。」
ふーんと前を向く時雨。
今、時雨とお龍はいつもの如くお遣いに出ていた。
ただ、今回は時間の余裕があるため京の町をフラフラしているのだ。
京に来てどこも見て回っていなかった時雨はいい機会だと思っていた。
しかしそれはお登勢や坂本が分かっていて与えた機会であった。
(そうせな時雨は京の町を見るなんてせんからな…。)
心なしか嬉しそうに目を輝かせる時雨を見てお龍は目を細めた。