幕末怪異聞録
「――――っ!!!」
歩いていると背後から只ならぬ悪寒が時雨の全身を駆け抜けた。
この感覚には覚えがあった。
(妖怪か!!)
思わずバッと振り返るとそこにあったのは……
「――池田……屋…?」
普通の宿屋だった。
しかしすぐに気配を消してしまっていた。
「どしたん?時雨。」
「いや――…何でもない。」
そう言ってその場からさっさと離れようとした。
(結構強い気配を何もなかったように消した……。
ああいう輩はつつかないのが賢明だ。)
昔はともかく、今の状態で相手できるほど簡単な妖怪ではないと思った。
それに悪さをしているわけではないため、特段何か手を加える必要もないと判断したのだ。
(しかし嫌な感じがする……。)
そう思いながらお遣いに戻った。