幕末怪異聞録
その夜、辺りはバタバタと騒がしかった。
時雨は寺田屋に戻らず、狼牙を連れてご飯を食べていた。
狼牙は時雨のいつもと違う様子に気付いていた。
「なぁ、やっぱり昼間のこと気にしてんじゃねえの?」
「……何で?」
「だって、気にしてるから寺田屋帰らなかったんだろ?
それにさっきからチラチラ外を気にしてるし…。」
「まあ、気にしてると言えば気にしているな。
なんせあの男、私でも分かる鬼のニオイをつけてたし、それに気がかりなのは池田屋だ。」
「池田屋?」
「ああ。数日前強い気配を感じたんだが、すぐに消えてしまった。その気配と、あの男についていた邪が似ていた…。
それにさっきから嫌な予感しかしないんだ。」
「――それは結構大変な事が起こるかもしんねえな…。」
時雨の“予感”はよく当たり、何かしらの事件がいつも起こるのだ。
(何も起こらなければいいんだが―――……)