幕末怪異聞録


その夜、辺りはバタバタと騒がしかった。


時雨は寺田屋に戻らず、狼牙を連れてご飯を食べていた。


狼牙は時雨のいつもと違う様子に気付いていた。


「なぁ、やっぱり昼間のこと気にしてんじゃねえの?」


「……何で?」


「だって、気にしてるから寺田屋帰らなかったんだろ?
それにさっきからチラチラ外を気にしてるし…。」


「まあ、気にしてると言えば気にしているな。
なんせあの男、私でも分かる鬼のニオイをつけてたし、それに気がかりなのは池田屋だ。」


「池田屋?」


「ああ。数日前強い気配を感じたんだが、すぐに消えてしまった。その気配と、あの男についていた邪が似ていた…。
それにさっきから嫌な予感しかしないんだ。」


「――それは結構大変な事が起こるかもしんねえな…。」


時雨の“予感”はよく当たり、何かしらの事件がいつも起こるのだ。


(何も起こらなければいいんだが―――……)



< 146 / 321 >

この作品をシェア

pagetop