幕末怪異聞録
「以蔵はいい奴だな。」
「そ、そんなんじゃ――」
「照れなくていいから!」
相変わらず笑っている時雨は至極機嫌がよいのか、鼻歌まで歌っている。
そんな様子の時雨を見ていた狼牙は不安に思っていた。
(何かあるんじゃないか……。)
そんな不安が的中し、時雨は狼牙に笑みを向けた。
「そうだ、狼牙。これから行くところがまだあったな。」
「え?」
「すまんが以蔵、先に帰っててくれないか?」
「どこに行くがじゃ?」
「まぁ、野暮用だよ。じゃあな!」
不審に思う岡田を半ば振り切る感じで別れた時雨。
岡田の姿が見えなくなった頃、狼牙は口を開いた。
「新選組が気になるんだろ?」
「あぁ。もう嫌な気配がプンプンしてきて苛々してたんだ。」
「だろうと思ったよ。」
「行くぞ。」
時雨は大狼になった狼牙の背に乗り、池田屋に向かったのだった。