幕末怪異聞録
その刀は
『鬼尋坊』(キジンボウ)
と呼ばれる刀である。
これは西沢が時雨に呪いをかけた時に使った刀であり、二対の物であった。
一本は西沢が所有し、もう一本は今、時雨と鍔迫り合いしている刀である。
「―――ぐっ……!」
押しに負けた時雨は崩れた体制を戻し、相手を睨んだ。
『くくくっ……!気の強い女だ。
ここで散るのは惜しい…。
私は吉田稔磨。
共に来るがいい。すれば命は助けてやる。』
余裕綽々に笑う男に時雨は鼻で笑った。
「誰がてめぇなんかと行くか!
人の魂を食ってのぼせ上がってる勘違い鬼野郎が!」
『戯けが!!』
ガッ!
「――カハッ……!」
激怒した男は時雨の首を掴み上げた。