幕末怪異聞録
「汚ねえ手を……
離せ!!」
ザシュッ!!
『―――!!』
吉田に斬りかかり、解放された時雨は肩でゼーゼー息をし、再び構えた。
その姿は鬼気迫るもので、鬼である吉田が思わずたじろぐ程であった。
『――何故そんなに必死なのだ?その呪いは死に至らないであろう……。』
「何故……だと…?」
しっかりと前を見据えた時雨の瞳には、憎しみや悲しみとは違う、強いものが写っていた。
「“誇り”だ!
私の“誇り”を殺し、貶めたんだ。その“誇り”を取り戻す!」
“誇り”と言ったものは、自分の夫と息子であった。
それを取り戻すということは時雨にとって仇を取ることであり、呪いを解くことである。
このとき時雨は“誇り”に囚われすぎていたのかもしれない。
だが、それが使命だと信じてやまなかった。