幕末怪異聞録
土方の焦った声に応えるように凛とした声が響いた。
「どこを見とるんじゃ?」
驚いたように振り向く鬼の後ろに、肩に刀を置き鬼を見上げる灰鐘がいた。
「お前、何故“あれ”に取り入ったんじゃ?」
斬りかかろうとしない灰鐘に鬼は高笑いをした。
『左肩を負傷して刀を握れなかったあの人間の為に、刀を握れるようにしたまで。
それのどこが悪い。』
卑劣な笑いか辺りに広がる。
その笑いを聞いて、段々と青筋が立ってゆく。
「下郎な……!!」
カチャリと鬼に刀を向けるその瞳には怒りしか映っていなかった。
「悪いに決まっておろうが!
貴様に人間の生気を吸ってよい道理がどこにある!」
『黙れ糞野郎!!』
ダンッ
ザシュッ!!
鬼の振り上げた拳よりも速く、灰鐘は鬼の頭を切り裂いた。