幕末怪異聞録
「池田屋にいたのか?」
その瞬間、桂からビリビリと殺気が飛んできた。
時雨はそれでも表情を変えなかった。
「いたぞ?誰だったかな?
確か、吉田稔磨って言ったかな…?」
「―――あなたが吉田を殺したの……ですか?」
その声は、怒りにも似た悲しみだった。
「殺した。それが私の仕事だからな。」
「あんたは退治屋と言って人殺しをしているんですか?」
桂は些か興奮していたが、それを抑えようと平常心をよそった。
そんな桂を見て、時雨は桂が“勘違い”をしていることに気がついた。
「あんた勘違いしてるかもしれんが、吉田は鬼に取り付かれていたんだぞ?
私はそれを退治したんだ。」
「……は?」
頭がついて行かないのか、桂は「意味が分からない。」と言わんばかりの困惑した表情を見せていた。