幕末怪異聞録
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「傷は深ないし、血ぃ止まってはったし、もう平気や思いますよ?」
「そうじゃろ?
ほんっまに土方が騒ぎすぎなんじゃよ。」
娘さんに渡された着物に袖を通し、口を尖らした。
「あ。そうじゃ!
着物、ありがとうな!」
「別にかまいません。それ、私が着なくなった着物ですから。」
ふふふっと笑う娘は、
「それでは失礼します。」
と言って部屋を出て行ってしまった。
その代わり、入れ違いに土方が入ってきた。
「どうだ?傷の具合は?」
「平気じゃ。」
ぐるりと左肩を回す灰鐘を傍目で見ながら土方は、机の前に灰鐘と向き合うように座った。
「山南さんは無事だ。
何事もなかったように寝ている。」
「――そうか…。」
そう言って灰鐘は少し頬を緩めた。