幕末怪異聞録
龍馬
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場所は江戸。
七月の夏、あちこちで蝉が鳴いていた。
「時雨ー!境内の掃除は終わったのかい!?」
「とっくに終わってるよ!」
灰鐘時雨、基、朝露時雨は実母の暮らす朝露神社で巫女として身を寄せていた。
そんな時雨も二十七となっていた。
「――ったく!何だいその言い草は!これだから嫁のもらい手がないんだよ!」
お小言を言ってくるのは時雨の実母の時子である。
ご存じの通り、彼女も巫女だ。
「もらってくれなくて十分。私には陽斗がいるからね。」
ぷいっとへそを曲げる娘。
そんな娘を見て目を細める母。
「あんたいい加減にしなよ?陽斗は死んだだろ?次に進みなさい。」
母の言葉に影を落とす時雨。
「―――無理だよ……。私は人間じゃないんだもん……。」