幕末怪異聞録
この三年、知り合いという知り合いに会っていなかった時雨。
(半年以上前に平助と江戸の街でばったり会ったが、誰かが訪ねてきてこうして話すのは久しぶりだな。)
訪ねてきていたのは坂本だけ。やはり他の知人の近況も気になるところ。
「みんなは?元気なの?」
「中岡とお龍は元気じゃ!」
「ん?以蔵は?」
岡田のことは触れなかった坂本。何かあるのかと思い聞き返すと信じられない言葉が返ってきた。
「――以蔵は慶応元年の五月に打ち首で死んだぜよ……。」
「―――は?打ち首?」
そうだったのだ。
どんどん焼けの時坂本と会ったが、あの時には岡田は土佐に捕らわれていたのだ。
拷問にあい、翌年の五月に斬首されたのだった。
それを聞いた時雨は境内の方を向いて手を合わせた。
「ここからですまない以蔵。安らかに眠ってくれ。」
強い風が二人の間を吹き抜け鳩が一羽飛び立った。