幕末怪異聞録
「その犬、お前のこと“時雨”と言ったな、一体――
ん?てめっ……!!
何で犬が喋ってんだよ!」
混乱しているのか土方は灰鐘と子犬を見比べた。
そんな様子に心底めんどくさそうに灰鐘はため息をついた。
「糞犬のせいで面倒なことになっただろうが。」
「あっ!久々に女の格好してる!
目に焼き付けとかないと!」
「キャンキャンうっせぇぞ、狼牙(ロウガ)。
焼いて食っちまうぞ?」
狼牙と呼んだ犬を睨み付け、灰鐘は咳払いをして土方に向き直った。
「すまんな、嘘ついて。
私は女で、名は灰鐘時雨(ハイガネシグレ)。
あの犬は妖怪で、妖狼の狼牙ってんだ。
そして、私も半分あっちなんだ。」
そう言って前髪で隠れた右目を露わにすると、そこにあったのは灰色の瞳だった。