幕末怪異聞録
「私らは江戸の山奥でひっそりと暮らしていた。
十六の頃には近所の人間の男と所帯を持ち、十八の時に子どもができた。
平和に幸せに暮らしていたんだ。
なのに―――」
言葉を詰まらせる灰鐘の瞳には怒りが含まれていた。
「三年前、西沢雅(ニシザワミヤビ)と言う妖怪の男が来て、村を潰したんだ。
その時、私の旦那と子供は殺された。
だから私はそいつに復讐するために旅をしていたんだ。」
「…。」
全てを話した灰鐘は
「もういいだろう?」
と立ち上がり、障子を開けた。
「…。」
そこには幹部連中が鎮座していた。
「まぁ、特段聞かれても拙い話でもなかったし、かまわないか…。」
その言葉に土方は顔を上げた。
「嘘…か?」