幕末怪異聞録


止まっていたのはほんの少し。


伊藤は目を輝かせて時雨の顔を覗き込んだ。


「ーー桂ぁ~!!お前も中々隅に置けないなぁ……。こんな別嬪さん何処で捕まえて来たんだ?」


「変な事言わんでくださいよ!!この人が勝手に来たんです!」


話に着いていけない時雨は、とりあえず空気を読まないで伊藤に話しかけた。


「なぁ、あんた。龍馬がえげれす行った理由知ってるのか?」


少し面食らった伊藤だが、時雨の真っ直ぐな瞳に負けたのか、あっさり答えてくれたのだ。


「坂本はグラバーと仲が良かったからな。彼が一緒にイギリスに行こうと誘ったのだよ。」


「“ぐらばー”って何?」


「グラバーか?あいつはーーー………。」

「伊藤さん!!そこまでです!」


桂の声にハッと我に帰った伊藤は罰が悪そうに頭をかいた。

そして、「すまんな。」と時雨に言ったのだ。


(ーー本当にここまでが限界なんだな。)


そう理解した時雨はまた話を変えた。


「ところであんた誰?」


うっかり名を聞くのを忘れていた時雨。

伊藤もまた然り。


「まだ名乗ってなかったな~……。俺は伊藤博文だ。嬢ちゃんの名は?」


「時雨だ。」


「時雨か……。時雨ちゃん、これから俺といい事しーーー」

「するか!助平!!」










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