幕末怪異聞録
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「——ただいま。」
宿に戻った時雨は、部屋に入るなりドカッと座った。
「時雨!その姿!!」
「あぁ、鬘が取れてしまって長州の変態に見られてしまった。」
「へ、変態……?」
黄金色の髪が露わになっている時雨の姿に些か焦った狼牙だが、時雨本人があまり気にも止めていない様だったので拍子抜けしてしまった。
そんなやり取りを見ていたコンは時雨の姿に見とれていた。
「どうした?コン。」
『時雨、凄い綺麗だ。どの妖怪よりも綺麗だ。』
真剣な眼差しで歯の浮く様な台詞を言ったコンにかなり驚いたが、時雨はニコッと笑って「ありがとう。」と言った。
そんな笑顔を見たコンは時雨にすり寄った。
『おいらの母ちゃんになって!』
「………え?」
さすがの時雨も面食らった様子でコンを見下ろした。
「ば、馬鹿言ってんなよ!!時雨が母ちゃんになるわけねぇだろ!!」
些か戸惑いながらも狼牙はコンに怒鳴った。
時雨も、「気持ちは有難いんだがな……。」と苦笑いをした。
「そんなことより、ちゃんと長州の阿保に怒鳴りつけてやったからな。」
二カッと笑った時雨はコンの頭を撫でた。
コンも満面の笑みで大きく頷いたのだった。