幕末怪異聞録
「いって~!!」
頭を抱えうな垂れる時雨。
「女なんだから少しは加減しろ!」
涙目で抗議するも、土方の眉間には深い深い皺が寄っていた。
「——てめぇ、何処行ってやがった?」
「——ちょっとな……。
それより土方、面を貸せ。」
「ちょっとじゃねぇよ。それになんで貸さねぇといけねぇんだよ。」
「いいから。」
嫌がる土方の腕を掴み引き寄せ、額に人差し指を当てた。
「……。」
「——土方さん?」
土方に沖田が声をかけるも当の本人は気付かず、目を見開き固まったままだった。
時雨は目を伏せ、「——だ、そうだ。」と言って手を引いた。
ガシッ!
「!?」
その手を逃がさんとばかりに掴んだ土方。
慌てて顔を上げた時雨の目に写ったのは何かにすがる様な、不安気でありながら真っ直ぐな目だった。
「——それは真だな?」
「当たり前だ。“皆”に早く伝えてやりな。」
「そうだな……。」
口許に少し笑みを浮かべ、沖田と共に場を去った土方。
「——よかったな。土方。あんたは迷わず進めばいいんだ。
それが正しい道なんだよ。」
そう呟いた時雨は寒空を見上げ、口許を緩めた。
(——平助、あんたが伝えたかったことはちゃんと伝わった。安心しな。)
そして、時雨もまた、その場を後にしたのだった。