幕末怪異聞録
永倉の背中を見ていた時雨は、チラリと土方の方を見た。
相変わらず眉間に皺を寄せていた。
「ーーなぁ、時雨。」
「何だ?」
「俺のしている事は正しいと思うか?」
そう言った土方の目には迷いがあった。
藤堂の言葉で前に向いたのだろうが、やはり永倉のように試衛館時代の同志にあのような態度を取られるとその決心も揺らぐようだった。
そんな土方の気持ちが分かったのか、時雨はため息をついた。
「“試衛館の皆と共に新選組として刀を振るっていたことは俺の誇りだ。俺を誠の武士にしてくれてありがとう。感謝してもしきれねぇ。土方さん、厳しく俺を導いてくれてありがとな。あんたについて行ってよかったと思ってる。最後までついて行けなくてすまなかった。”」
「ーーそりゃ平助の……。」
「私は新選組の隊士ではないし、武士ではない。だが前からお前達を知っている者として言うとだな、やはり昔とは変わった気がする。
何が?とは明確に言うことはできないが、少なくとも土方、あんたは変わった。
だが、変わることがいけないとは私は思わない。
時代は大きく変化してんだ。変わらない方がおかしい。
自分がどうありたいか、その志だけ貫いてたら何が変わろうが大した問題じゃねぇと思うぞ?
大体よ、あんたが新選組をここまでデカくしたようなもんだろ?だったらあんたのすることが新選組の道なんだよ。胸張ってやってればいいんじゃないの?」
そう言ってニッコリ笑うと、土方もつられてフッと頬を緩めた。
「変なこと聞いて悪かったな。だが、気持ちがすげぇ楽になった。ありがとよ。」
そう言った土方は、時雨頭をポンポンと撫で、自分の部屋に戻って行った。
「私も総司を見つけてさっさと帰ろうか。」
そうして時雨も歩きだした。
油小路の変【完】