幕末怪異聞録
実のところ新選組の屯所など行きたくもなかったが…
昨日早く帰りたい一心で逃げてしまったから、仕事が残っているのだろうと観念してついて行った。
「ねぇ、灰鐘さん。」
「ん?何だ?」
前を歩く沖田に話しかけられ、少し考えたような様子の彼の横についた。
「君さ、“時雨”って名前なんだよね?」
「そうだが?」
「じゃあ、時雨って呼んでもいい?」
妙に子供っぽい笑顔を向ける沖田に、灰鐘は優しく笑った。
「あぁ…。
構わないよ。」
―――何だか、あの子を思い出しちゃったな…。
自分より大きな沖田の無邪気な笑顔を見てそんなことを思った。
「着いたよ。」
「着いちゃったねぇ…」
はぁ…とため息を吐くも前川邸からあやかしの気配を感じ
(あれ…?)
八木邸からも妙な気配を感じた。