幕末怪異聞録
ともあれ、夕餉から帰ってきた灰鐘に許してもらえた狼牙は部屋に戻っていた。
「ほら、ご飯をもらったから食べな?」
そう言ってむすびを差し出した。
「時雨!ありがとう!」
嬉しそうに食べる狼牙を見た灰鐘は、立ち上がった。
「狼牙…。」
「分かってるよ。
お梅さんとこ行くんだろ?
大人しくしてるから心配すんなよ!」
「ふっ…。
行ってくる。」
金色の髪を翻し、部屋を出た。
「お梅、入るぞ。」
さっと障子を開けると変わらず澄んだ空気が流れていた。
そのことに安心し、部屋に足を踏み入れた。
『なんや、男装してはるの?
一瞬誰か分からんかったやない。』
「女の格好で屯所を彷徨(ウロツ)くわけにはいかないからな。」
『あんさん女にしとくには惜しいくらい男前やなぁ。』
「それ嬉しくないな。」
灰鐘は、ジロジロと見てくる梅に嫌そうな表情を浮かべた。