幕末怪異聞録
灰鐘はその質問にとても答えにくそうにしたが、重たい口を開けた。
「“今”はいないからだ。」
「“今”は……?」
まるでこれから増えるかのように“今”を強調した灰鐘に原田はどう言うことかと目を向けた。
「昨日私が害のある奴らは大方片付けたんだが……。
害のない妖怪まで消えていてな。
嵐の前の静けさみたいなんだよ。」
「あ、あんまり脅かすなよ……。」
「今さっき、この木の上から見たが、周辺の妖怪もそわそわしていて様子がおかしいんだ。
あまりよくないんだ……。」
クシャッと前髪を掴む灰鐘。
(恐らく西沢が既にこの辺りにいるからだろうな…。
また、私のせいか……。)
原田は気を落とす灰鐘の肩に手をかけ、努めて明るい表情を見せた。
「何があったのかしんねえが、あんま落ち込むなよ。
何かあれば言ってくれよ。力になるからさ!」