幕末怪異聞録
「左之……。」
少し元気が出た灰鐘は、原田に笑みを向けた。
「ありがとう。
あんたにそう言われたら少し元気になった。」
「そうか。そりゃよかった。
さみいだろ?もう中へ入ろうぜ?」
両腕をさすりながら寒そうにする原田にまた灰鐘は毒を吐いた。
「なんだ、そんなにごっつい体でも寒いのか。」
「――言うと思った……。」
苦笑いを浮かべる原田と、クスクス笑う灰鐘は前川邸を後にし、八木邸へと足を踏み入れた。
(もうそろそろ此処を出た方が良いかもしれないな…。
良い人たちには迷惑はかけれん。)
「明日までかな…。」
「ん?何か言ったか?」
「いや、何でもない。」
曖昧な笑みを浮かべ、内心では決意を固めていた。
(西沢がまだ来なければ良いのだが……。)