幕末怪異聞録
灰鐘
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「まだ成仏しないのか?」
『……。』
「な、なんだよその目は!」
朝餉を食べてからというもの、梅の部屋で灰鐘は梅に“この調子”である。
そんな灰鐘に梅はついつい訝しんだ眼差しを向けたが、すぐにため息を吐いた。
『今日、此処を出て行くつもりなんやろ?』
「……。」
『あの……“西沢”言うたかな?その妖怪がすぐそこまで来てはるもんな…。
八木と前川の家、それにここいらの家に住んどった妖怪らが逃げてしもたからね。』
ここまで言っても黙りの灰鐘に梅はちらりと目を向けた。
『何かあるの?
言われへんことやの?』
のんびりした声色で、そんなに気してないよと言わんばかりの雰囲気を出していた。
そんな梅に根負けしたのか、ただの気分なのか分からないが、灰鐘はうっすら笑った。
「――それじゃあ話そうか…。」