幕末怪異聞録
時雨はキッと睨み付け、
「あんた誰?」
と声を低くして言った。
例え面識がなくとも、雰囲気と纏う禍々しい妖力で、味方ではないと感づいた。
そんな時雨に男は笑った。
『やはり俺が見込んだだけはあるな…。
俺は西沢雅だ。ここらの妖怪の頭をしている鬼だ。
お前は朝露(アサツユ)時雨だな?』
「“灰鐘”時雨だ。」
朝露の名は、時雨が嫁入りする前の名であった。そのため灰鐘をわざと強調した。
それに西沢は眉を寄せた。
『結婚しているのか?』
「当たり前よ。そこの人と五年前に結婚したの。」
そう言って、動かぬ息子を抱きしめ睨み付けた。
『そうだったのか…。俺はお前をもらおうと思ってきたのだがな。』
それを聞いた時雨は眉がピクリと動いた。