不思議な人
「冗談だよ」
主事が笑った。
「洒落にならないから、やめてくださいよぅ…」
「悪い、悪い」
すると、主事が手を伸ばしてきた。
「元気でな、坊主」
主事が青年を撫でた。
「…!足が消えて…!」
主事の体がどんどん薄くなる。
「事故ると、死んだ感覚がねぇから、事故るな。いいな」
「し…主事さん…」
主事の体は透明で無いも同然になった。
「坊主、またな…」
スッと主事の姿が無くなった。
「あっ…」
青年は一瞬、悲しい表情をした。
「またな、だって」
でも、すぐに笑みに変わった。
「またな、だってよ」
青年はクスクス笑った。
そして、駆け出した。
青年は校庭に出ると、人の目を気にせずに、叫んだ。
「またなー、おじさーん!俺も年食ったら、そっち行くかんなー!待っててくれよー!」
青年は空に手を振った。
雲ひとつない、快晴だった。
まるで…
そう、まるで…
おじさんの心のような…。
〈fin〉