不思議な人

その後も、ふたりは少し話した。


「そういや…」


主事さんが何かを思い出したように言った。


「お前さん、腹は平気なのか?」

「あ…」


青年は顔を青くした。

そして、おじさんの入っていたトイレへ入った。


「ははっ!面白い坊主だな」


主事さんが笑った。

微かに「笑い事じゃないっす…」と青年の声がした。


「じゃあな、坊主」

「あっ、さよなら」


主事さんの靴音がトイレに響き…

…止んだ。


「…?」


青年はどうしたものかと気になって、主事さんに声をかけた。


「…主事さん?どうかしたんすか?」


応答なし。


「主事、さん…?」

「………な」


声が小さく、青年には聞こえなかった。


「聞こえないっす。もっかい…」

「気をつけてな」

「は?」


主事さんの突然の言葉に、青年は驚いた。


「事故ったり、すんなよ。坊主」

「は、はい」


再び靴音が響き、ドアの開く音がした。


「元気でな、坊主」


その言葉と同時に、ドアがパタンとしまった。


「…なんとも、不思議な人だ」


青年はしばらくの間、トイレから出ることはなかった。


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