花日記
パラパラと、日本史資料集とか言う書物をめくる。
駄目だ、文字が読めない。
じっくり見てわかるもの、わからぬものが入り混じっている。
その書物の中に、見覚えのある絵があった。
───親父。
俺の親父も爺さんも、六百年先まで名を残している。
じゃあ、俺は?
親父の次に載っている肖像画は、明らかに俺ではない。
御先祖の尊氏爺さんから代々、がっつりとその垂れ目を受け継いでいる。
尊氏爺さんは醜男と伝わるが、歴代の御台所や生母が美人だったおかげで、俺まで受け継がれたのはこの尋常じゃない垂れ目だけだ。
そして、親父の次に載っていた肖像画は、明らかに垂れ目ではない。
つまり、俺ではない。
俺の子か?
否。
俺は子を持つ気なんかさらさらない。
そんで、これに似た男を一人、知っている。
比叡にいる、あの男。
面白い。
俺は歴史の日陰者、名を残すこともない、か。
笑いそうだ。
虚しくて、悔しくて。
でも、それが俺の望んだ道なのかもしれない。
「もういいでしょ?」
綾子がそう言ったのを聞き、現に帰る。
「ああ、十分だ。」
そう言って、書物を返した。