花日記

初めて見る奇怪な布で出来た荷物。



綾子は色の付いた物体をつまみ、それを切れ目のようなところにそって引く。



それだけで、荷の口が開いた。



「…。」



…言葉が出ない。



あまりの驚きからか、声の出し方を忘れたかのような状態だ。



恐る恐る手を伸ばし、それに触れる。



固く、漆器のようにひんやりとしていて、何で出来ていてどういう仕組みなのかまるで理解出来ない。



中をよくみると、数冊の書物と、他にもいくつかの物が入っていた。



「これは、化学。
これが、数学。
こっちは物理で、あとは、…国語。」



かがく?



すうがく?



ぶつり?



…国語というのは、恐らく読み書きだろうな。



「見たいんですよね、どうぞ。」



綾子はそれらの書物を出してくれた。



「ああ。
…これは何だ?」



ひとつ、小さくて分厚い書物があった。



大きさは、手の平より一回りか二周り大きい。



「それは物語です。」



「どんな?」



「…えっと、タイト…じゃなくて、題名は“花陵王顕家(*)”って言いまして、北畠顕家公の活躍を…」



「ブッ…!」



俺は思わず吹き出した。



北畠顕家っていやァ、幕府を造る前の戦で尊氏爺さんを散々に負かしたっつうあいつじゃねえか!



こいつ、そんなのを読んでんのか。



「面白いか?」



「とっても!」



急に綾子の目がキラキラした。



「言っとくが、俺らから見たら北畠顕家は敵だぞ?
そんなン読んでたら、幕府の頭の固い奴から見たら大問題かもな。」



「知ってます!
…でも、あなたはそうは思ってなさそうですね?」



痛いところをつかれたような、つかれていないような…



俺は幕府なんかどうでもいいが、一応将軍だからな…。





(*)一応の注意(*)もちろん私の考えたタイトルで、花陵王顕家なんて本はありませんよ!


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