花日記
俺は、ごまかすように物語のほうを床に置き、かがくという書物を手にとった。
また、適当にめくっていく。
こっちは、本当に見たことのない、はっきり言えば意味不明の内容だった。
俺はこの時、相当眉間に皺が寄っていたと思う。
「何だこれは?」
理解云々より、まず読めない。
それから、よくわからない、恐らくは文字であろうものがずらりと並べられた見開きを食い入るように見た。
ひとつひとつ、四角い色つきの枠におさまっている。
「ああ、周期表ね。」
綾子が横から書物を覗き込んでくる。
「しゅうきひょう?」
「元素をある順番にそって並べた表のことです。」
「げんそ…?」
何だかわからず、おうむ返しして尋ねる。
綾子はビクッと体を震わせ、悲しそうな顔をした。
「…元素は、それ以上細かくできない一番小さい粒子、つまりは粒というか、そういうものです。
言い換えれば、この世のすべては元素から出来ているということになります。」
「すべて?
では、人もか?」
「はい。
人も、動物も、木も、水も、空気も、みんな元素から出来ているの。」