花日記
色街には数えられないくらいの遊女がいる。
俺は正直、女ならどれでもいい。
ぶらぶらしていたら、ある女が目に留まった。
「…綾、子?」
そんなわけがない。
ここは色街で、綾子は御所にいるはずだ。
それに、よくよく見ると、水干を着ている。
白拍子(*)か。
白拍子は時々御所に呼んで舞を舞わせることがあるが、正直、あまり好きではない。
それに、水干姿ということはこれから何処かへ呼ばれて行くのだろう。
「あの、何か?」
透き通るような高い声ではっと我に戻ると、どうやら俺はその白拍子の行く先を塞いだ上に、じっと見下ろしていたようだった。
近くで見ると、本当に綾子にそっくりだ。
「…いや。」
少しどいて、また歩き出す。
「あ、お待ちを。」
「何だ。」
「何処かで、お会いしませんでしたか…?」
「は?」
「あ、いえ。
ある御方に、似ていたものですから。
失礼しました。」
白拍子はそれだけ言って、人の中に消えて行った。
(*白拍子)
今様や朗詠を舞う男装した遊女。
白い直垂、水干姿で白鞘巻の刀をさし、歌や舞を披露した。
有名な白拍子としては、源義経の愛妾・静御前や平清盛の愛妾・仏御前や祇王などがいる。