花日記
部屋の中で、特に何をするでもなくぼうっとする。
政だの、今日の遊びだのそんなことを一切考えずにただぼうっと。
俺はこの何もない時間が好きだ。
煩わしいものも、嫌なものも、不快なものが何もない時間。
だが、今日は夜遊びのし過ぎで罰が当たったのか、この時間は長くは続かなかった。
「あ、義量さん!
良かった、姿が見えないって大騒ぎだったんですよ?」
高い声がし、振り返ると綾子が部屋に入ってきていた。
義量、と呼ばれたことにドキリとする。
俺の諱を呼ぶ奴なんか、いないから。
基本的に上様や公方様、将軍になる前は若や若君、若様で、親父やお袋なんかは、そなた、と呼ぶため俺は名をほとんど呼ばれない。
なんの躊躇いもなく諱を呼ぶ綾子を不思議に思っていると、綾子はまた口を開いた。