花日記
「そうそう、義量さんをまだ探している人がいて…。
居たら呼んでほしいって言われてたんです。
呼んで来ますから絶対部屋から出ないで下さいね!」
綾子はそう言うと部屋から出て行った。
しばらく静かになるかと思ったが、すぐに慌ただしい足音が聞こえてきた。
「公方様っ!!」
バンッと襖の開け、ゼイゼイ息を切らしながらこっちを睨みつけるのは俺より一つだけ年下の俺の側近。
「どちらに行っていらしたのですか!?
このまま公方様がお帰りにならなんだら私の首は飛んでおりましたぞ!!」
大谷正家
──おおたにまさいえ。
十五年前、町で捨てられているのを見かけた母上によって小姓に取り立てられた。
二人とも赤子だった頃から一緒で、今では俺の小姓組の筆頭格。
子供または女と見間違えられるくらい可愛い男である。
「大丈夫だろ、お前の首はいくつ飛んでも。」
「なあっ…!
私の首はひとつにございます!!
第一、公方様が護衛も無しに市井に遊びに行ってしまわれるのが問題なのです!!
あなた様は天下の征夷大将軍であらせられるのですよ!?
って聞いていらっしゃいますか!?」
「ああ、聞いてる聞いてる。」
「言葉に誠意がございませぬ!!」
──こいつは説教が長いのが玉に傷だな。