花日記
うるさい正家がいなくなってようやく静かになる。
「……」
「……」
…いや、静かになる、と言うよりは気まずくなる、といったほうが正しいかもしれない。
「どこに行ってたんですか?」
何故か重くなった空気を戻そうとしたのか、綾子が話し掛けてきた。
でも、俺はなかなか答えられない。
とてもじゃないが遊郭で遊女を抱いてたなんて、言えない。
「酒を呑んでた。」
かなり苦しい言い訳をする。
「お酒なら、飲みかけが部屋に置きっぱなしでしたよ。」
「それはっ……」
あれ、なんで俺、こんなに焦ってるんだ?
素直に言ったところでなんの問題もないだろ。
綾子はただの居候で、本当の側室ではない。
俺が誰を抱こうが関係ない。
それに、綾子はそのうちにきっと未来に帰る。
六百年先の未来へ。
なら、いいだろ。
「外の酒の方が旨いんだよ…」
「…」
…結局苦しい言い訳を重ねる。
なんだか変だ。
俺が俺らしくなくなっている。
前の俺なら平気で
『遊郭だ、』
と言った筈なのに。