花日記
「でりかしいなど、俺は初めて聞いた言葉だ。
そういえば、前に乱波のことを忍者と言ったな。
お前の言葉には、どうも聞き慣れないことが多い。
未来の言葉か?」



「た、多分…」



「そうか。」



「と、とにかく、女の子の前で着物を脱がないで下さい!」



「嫌ならお前が後ろを向いていろ。」



大体、着物なんかどうでも良いだろ。



よくわからない奴だな。



綾子ははっとしてすぐに後ろを向いた。



「ご、ごめんなさい…」



聞き取れるギリギリの声で謝られる。



「いい。」



短く返事をし、再び着物を着替え始めた。



「なあ。」



着付けをしながら成兼が声をかけてきた。



「ん、どうした?」



「あの姫は未来から来たのか?」



「何故そう思う。」



「何故って…
お前なぁ、思いっきり未来がどうの言ってただろ。
それに、初めて姫が御所に来た日に着ていた着物もそうだ。
普通、変だと思うが?」



「…ああ、そうか。」



何故成兼が綾子が降ってきた日に着ていたあの奇怪な着物のことを知っているのかは別として、確かにあの会話を聞いていればそう思うのも無理はない。



それに、でりかしいとかいう未来の言葉も連呼していたしな。



「綾子は未来から来た。
俺は少なくともそう信じている。」



「へえ、そうか。」



成兼はニヤリと口角を上げた。



俺がこんなにもすんなり信じていることが可笑しいのだろう。



こいつめ、と成兼を睨みつけるが、成兼はニヤニヤ顔のまま着付けを続ける。



「笑うな。」



このやろ、とまた睨む。



「笑ってない笑ってない。」



「いや、顔が笑っているぞ。」



「そうか?」



「そうだ。」



「そりゃ、悪かったな。
ほら、終わりだ。」



「ああ、ご苦労さん。」


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