花日記
「姫ーっ。
もう終わりました、こちらを向いても構いませぬよ。」
成兼は声を張って綾子に言う。
「あ、ありがとうございます…」
綾子は少し頬を赤くして振り返った。
「ああ、忘れるところでした。
姫、今宵の宴には是非姫にもご出席頂きたいとのことです。」
成兼はわざとらしい口調で綾子に言う。
「私がですか?」
「ええ、公方様の初の御側室にございますゆえ。」
「は、はあ…」
「ご心配召されますな。
姫は御簾の内にいてくだされば良いのです。」
成兼は気持ち悪いくらいの満面の笑み。
「わかりました…」
綾子は押し負けて承諾してしまった。
成兼のやつ、なにか企んでるな。
その企みが災いしないと良いのだが…。
「では、早速準備を。
京でも最高の着物をご用意致しました。
侍女に申し付けてありますので、お部屋へ御戻り下さいませ。」
「はい!」
綾子は慌ててて出て行った。
「…お前、何を企んでる?」
「いや、何も。」
「嘘つけ。
顔が気持ち悪いくらい笑ってるぞ。」
「まあ、それは後のお楽しみだ。
親父どもが呼びに来るまでのんびり休んでくれよ。」
「言われなくてもそのつもりだ。」
「まったく、気楽な公方様だな。
一応教えておくが、今日は能楽師だけじゃなくて白拍子も来るみたいだぞ。
あんまり白拍子に見とれて姫を悲しませるなよ。」
「…は?」
「じゃ、私はこのあたりで失礼致します、公方様!」
成兼は終始ニヤニヤ顔で部屋を後にした。