花日記
夕方、空が朱く染まった頃に侍女が呼びに来た。
「公方様、宴の仕度が調いましてございます。」
「わかった。」
立ち上がり、迎えの侍女の案内し従い歩く。
大広間はもう宴が始まっていた。
その広間の上座、俺のために設えられた席に向かい真っすぐに歩く。
俺の姿を確認した者達が次々と頭を下げていく。
敷物の上に座り、辺りをぐるっと確認する。
親父と母上はまだ来ていない。
俺から少し離れた御簾の内には、綺麗な赤い唐衣裳に着替えた綾子らしき姫の姿。
やはり、綾子には赤がよく似合う。
下座近くに設えられた舞台には、まだ人影はない。
一通り周りを見渡したところで、俺は面を上げるように言う。
頭を下げていた者達はまた次々と頭を上げていった。