花日記
「公方様におかれましては、ご機嫌麗しく、恐悦至極にございます。」
上座近くに座る、管領の畠山満家(はたけやまみついえ)がまずは挨拶を述べる。
この畠山は今の幕府内では俺をおけばいわば最高権力者。
俺からすれば、親父とさしてかわらない、面倒なジジイだが。
──早く酒が呑みたい。
こう考えているのは俺だけではない筈だ。
だらだら長い挨拶をされても退屈だしな。
「挨拶はそれくらいで良いだろう。
宴をはじめよう。」
「これは、あいすみませぬ。
では…」
畠山の号令で、俺の登場で一時中断していた宴が再開する。
さすがに無礼講とまではいかないが、皆飲んで騒いでの大騒ぎが始まった。
「父上と母上は?」
生真面目な二人にしてはなかなか姿を見せない。
「は。
大御所様と大御台様は、大御台様の体調が優れないためご出席されないと、先程連絡がございました。」
俺の近くに控えていた成兼が答える。
「そうか。
ならば後で母上に何か持って行ってくれ。」
「承知致しました。」
成兼はすぐに正家に伝え、正家はすっと静かに席を外した。
こいつら兄弟の仕事の速さは並ではない。
感心しながら少しずつ酒を呑み進める。
今日の酒はそこまで不味くないな。