花日記
昨晩、色街で見かけたあの白拍子だった。
遠目でははっきりとはわからないが、昨晩思った通り綾子によく似ている。
──綾子。
頭の中で綾子の名を呼んだら、一瞬、何故かあの白拍子を見てはいけない気がした。
ドクドクと脈が早くなっていくような錯覚を覚える。
振り払ってしまおうと酒を飲むが、全く意味がない。
落ち着かない。
目線はあの白拍子から、綾子のいる御簾の方へ勝手に動いていく。
白拍子を見て、綾子はどんな顔をしているのだろうか。
御簾の内からじゃ、白拍子の顔なんて見えにくいし、こっちからも綾子の表情まではっきりとなんて見えないのに、どんどん引き寄せられていく。
綾子は白拍子の舞なんかより、目の前の膳に夢中だった。
──良かった。
…良かった?
何故かホッとしてしまっている自分がいた。
綾子が白拍子を見ていなくて良かったと思っている。
その理由はわからないが。