花日記
そうこうしている間に白拍子達は舞を終え、そのまま給仕のために上座までやって来る。
俺には当然のように舞の時、真ん中で舞っていた白拍子が来た。
白拍子の中でかなり上位にいる女なのだろう。
さして美人には見えないが。
「私は葛桐と申しまする。
さ、公方様。
お酒を。」
「あ、ああ。」
杯に注がれるままに飲んでいく。
つい、ぼうっとしてしまい、酒が杯からこぼれた。
「あ、申し訳ございませぬ…」
葛桐とかいう白拍子はすぐに濡れた手と着物を拭いてくれた。
「公方様?」
酒はもういいととったのか、今度は話し掛けてくる。
「なんだ。」
相手をする気にもならず、適当に返事を返す。
「あの者のほうがよろしゅうございますか?」
「…は?」
「先程からずっとあれを見ていらっしゃいますわ。」
葛桐はむこうで畠山の給仕をしていたあの白拍子を指差した。
「いや。」
あの白拍子を意識して見たせいか、また心の臓がドクドクと脈打つ。
それを悟られたくなくて、ついきつく言い返してしまう。
その行動が裏目に出たのか葛桐は何かを悟ったらしく、立ち上がってあの白拍子のところへ行ってしまった。