花日記

みるみるうちに夕凪の頬が赤く染まっていく。



「お放し下さいませ…」



恥ずかしそうに言う夕凪に、俺は朝っぱらから意地悪を思い付いた。



「ん?
聞こえねえよ。」



そう言って抱きしめる力を強める。



「えぇっ…!?」



戸惑いながら夕凪は身をよじって、ぎゅっと抱き着いた俺の腕から抜け出そうとする。



俺はその様子が面白くて、さらに力を強めた。



「お、」



「…お?」



「お戯れが過ぎますっ!」



夕凪がそう叫ぶと同時に、額に痛みが走る。



ゴツンッという鈍い衝撃音と共に。



痛みで緩んだ俺の腕から、夕凪はするすると脱出してしまった。



「ってぇ…」



予想外の痛みに思わず声が出て、それから手の平を額に当てた。



「あっ…!
申し訳ございませんっ!!!」



夕凪は褥から飛び出て床に突っ伏すように土下座した。



「公方様に頭突きなど…。
平に、平に御容赦下さいませ!!!」



泣き出しそうな声で叫ばれる。



刹那の間、沈黙が流れた。



「ふっ…」



駄目だ、と思うのに抑えきれない。



「ふはははははっ!!!!!
かまわん、許す。」



今にも泣いてしまいそうな夕凪とは対照的に、俺は必死で笑いを堪えながら言った。


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