花日記
「ねぇ、旦那ぁ。
そろそろ名前、教えてくれない?」
「…ああ。
気が向いたらな。」
「ええー。
いいじゃないのぉ。」
猫撫で声で女がそういうのを曖昧な返事で受け流す。
女は面倒だ。
一夜だけ遊ぶならまだいいが何回も会うようになると、しつこい。
名を聞きたがるし、次に会う約束を取り付けようとする。
そして名を教えた途端、豹変する。
『足利』の家名と、将軍という地位。
その先にある金銀財宝を求めて群がってくる。
だから名は絶対に教えないし、側室になんか上げてやらない。
一人の女に通うのは、三回まで。
いくら俺でも、遊ぶときにこれだけは気をつけていた。