花日記
「何かあったのか。
家臣や侍女どもに、嫌なことでも言われたか?」
痛々しい目元から手を少し下げて、頬を撫でる。
俺はこんなに優しく人に当たれたのか、と思うほど、優しく。
綾子は無言で首を横に振った。
「そんなんじゃ、ありません。」
「ならば、何故泣く。」
綾子の目からは、とめどなく涙が溢れ出てくる。
それが手に触れて、温かい。
綾子はただただ首を横に振っていた。
泣きじゃくる綾子を見ても、俺はつくづく薄情なようで。
未来の者も泣くのだな、なんて考えていた。
「泣くな。」
口ではそんなことを言いながらも、眠たさと闘いながら炊飯器について想像を膨らませる。
この日はとりあえず綾子が落ち着くのを待って、自室に帰った。