花日記
「例えば。
例えばだぞ。
もしもお前が突然、知らない土地…、それも過去に来たとする。
生活も違う、知り合いもいない、ましてや過去だなんて、これからどうなるかもわからない。
そうなったら、どうする?」
もしも、俺が突然、過去に行ったら?
綾子の言った通り、六百年前に行ったとしたら?
今から六百年前なんて、やっと京に都が出来た時代。
武家の身分なんて底辺で、和歌だの花だのを愛でる貴族たちが君臨していた時代。
そんな時代に、突然飛ばされたら?
そんなの…。
「辛いだろ?
まして、姫は女だ。
今の時代、女なんて自分の力だけで生きていくのも難しい。
未来に帰りたくて、仕方ないだろう。
未来には家族も友も、もしかしたら恋人だっていたかも知れない。」
たしかに、成兼の言う通りだ。
心細くて、寂しくて。
ここが本当に過去かもわからないのに、たった一人で。
そう思ったら、いてもたってもいられなかった。
思わず部屋を飛び出して、綾子の許へ向かう。
申し訳なさと、悲しさと、ほんの少しの、愛しさを持って。