花日記
【第ニ章】未来の女
*ここで。
久しぶりに走った。
全力でなんて、本当に久しぶりに。
俺が走っているものだから、奉公人も家臣もただならぬ顔をして道をあけていく。
そんなもの、全く気にならない。
息を切らすのも忘れて、ただ走った。
綾子の部屋の前に来ると、侍女たちは驚いた顔をする。
今さらになって、ゼイゼイと息切れがする。
でも、そんなのどうでもいい。
「公方様、如何ななされましたか。」
侍女の一人が聞いてきた。
そんなの無視して、襖を思いっ切り開ける。
「綾子。」
綾子はただただ、驚いていた。
「どうしたんですか?」
ただならぬ俺の様子に躊躇いながらも聞いてきた。
俺は、無言で綾子を抱きしめた。