花日記
これくらいしか、俺には出来ない。
他にも他家へ嫁がせるとか、寺に入れるとか、いろいろあるし、俺が将軍である限り、それは簡単だ。
だが、それではあまりに悲しい。
「義量さん…。」
綾子は、俺の考えを言ってからしばらくして、口を開いた。
「ありがとう。」
ありがとう。
その言葉で、思わず微笑む。
「嬉しいです、こんな怪しい私を居候させてくれるだけでもありがたいことなのに、そこまで考えてくれたなんて。
本来なら、怪しい輩として、その場で斬りつけられても仕方がないのに。」
「馬鹿な、俺は人を…女を斬ったりなどしない。」
綾子は深く微笑んでから、言葉を続けた。
「私、こっちに落ちてからしばらく…、いいえ、ずっと泣いていました。
不安で、寂しくて、ここがどこかもイマイチわからなくて。
錯乱したこともあるんですよ。
過去だなんて、本当に怖かったから。」
綾子の涙の訳。
俺にも、わかった気がした。