花日記
「だから、私は嬉しいです。
あなたが私のために、そこまで言ってくれて。
私は、ここで生きます。
いつか帰る、その時まで。」
綾子は笑っていた。
強い女だと思う。
とても、とても。
「だから、私を…。
働かせてください。」
働かせてくれ?
「何を申すか。」
「このままずっとお世話になるだけだなんて、私、嫌なんです。
働かざるもの、食うべからずって言うでしょう?
侍女にだって、下女にだってなります。
言われれば、掃除洗濯、何だってやります。
………その…、夜伽、とかも…。
だから、私をここに置いてください。」
綾子は深々と頭を下げた。
何を言っているのか、この女は。
働きたいだなどと。
馬鹿馬鹿しいにもほどがある。
この俺が、ここにおいてやると言っているのに。
家族にだって、なってやると言っているのに。
「お前はそのようなこと、しなくても良いのだ。」
「だって…」
「もう、お前は俺の側室として皆が知っている。
そんなお前を下女になんてしたら、何事だと思われるぞ。」
「それなら、あなたの意に添わないことをしたとかなんとか…」
「そうなれば、今度はお前を追い出さなくてはならなくなる。
そうなれば、生かしてやることなど出来なくなるぞ。」
「うっ…」
「お前は何もせずとも良い。
何かしたいのなら、俺に時々未来の話を聞かせてくれ。
俺には知りようのなかった知識を、俺に教えろ。
それで十分だ。」
「…はい!」
綾子は大きな返事をした。